闇のリフレイン

【11〜20】




「桜の闇」

淡いピンクの花びらが散る
君の肩に留まったそれにキスする
桜の木々がそれを見ている
過ぎる人も僕らを見ている
君が頬を染める
落ちた花びらを集めて
そこら中に降らせて回る
重なった闇の
狂気じみた
桜のトンネルみたいに


「空席」

チケットは2枚ある
まだ 誰のでもない空白の座標
あなたは座ってくれますか?
隣は無論 僕の席です
問われた少女の瞳が震える
怪しいですか?
でも 僕はあなたのために
この座標を埋めたいのです


「孤独」

靴音が付いて来る
月は傘を被っている
記憶の底で絡み合う
僕は過去の血を引きずっている
この手がいくら君を求めても
裂かれた心臓は脈打たない
奏でられない悲しみを抱いて
孤独になった手が
潮騒に似た弓を引くだけ


「スミレの抱擁」

踊り場に漂う君の匂い
僕は その段を上がる度
優しさに跪いてキスをした
壁にはめ込まれた景色は
スミレの抱擁を思わせた
僕は この階段を上がる度
胸打たれ
今ではすっかり
ここが僕の故郷になった


「狩り」

雨の音に混じって発射された銃弾
耳の奥で感じた孤独
錯綜する靴音
君の窓辺にはまだ明かりが見える
闇の中で
メロディーはまだ続いている
逃げた獲物の先回りをして
僕は君と二人 月光を狩る


「誕生日」

僕達の誕生日は同じ
なのに 君は誕生日を祝わない
僕は僕の誕生日を祝えない
「戸籍の日付とずれてるんだもの」
君が言う
――あなたの心とずれているんだもの
キャンドルは涙で消えた
誕生日には何故か悲しみが付き纏う


「テンペスト」

風が鳴っている
獲物はどこだ?
白い手袋を脱ぎ捨てて
タキシードを着た悪魔が襲い掛かる
君のバラ色の頬に
この爪が滲ませた刻印
嵐が来るよ
この胸を締め付ける
鍵盤で踊る悪魔


「駅」

君を迎えに来た
寒かった夜
改札を風が抜ける
ココアの缶は 温くなってしまった
ポケットに入れた手は冷たい
それでもいいんだ
僕は君にとっての終着駅だから
ずっと ここにいる
あと一回 熱いココアを買って待つ


「滑車」

巻き続ける糸の端を
僕は探せずに滑車を回す
君が欲しくて泣いた夜に
君は悪戯な小鳥のように舞い降りて
僕の心を啄んだ
だから今も 僕は夜
夢が途切れないように
傷跡を紡いで
滑車を回しているんだよ


「賛美歌」

僕はピアノを弾く
君のためなら いつだって
絨毯に残る染みは
この手に刻んだ十字架の傷
僕のものだけでいてよ
夢なんて見ないで
君の愛が手に入るなら
この手が壊れるまで 僕は
君を賛美するだけの曲を
弾き続けたっていい!